医学教材開発プロジェクト

2012〜2013年度にP&P(九州大学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジェクト)に採択された「病院地区における3D教材の開発および開発・提供体制の構築」の一環として、学生主導で医学教材を開発してきました。2012年度は3DCGを活用した骨学の電子教材、2013年度は細菌学のシリアスゲーム教材の開発を実施し、携わった学生が学会発表を行いました。
2014年度以降はP&Pに依らず、教材開発センターの「学生との協働による教材開発」事業として、引き続き医学教材を開発していきます。以下「病院地区における3D教材の開発および開発・提供体制の構築」の研究内容です。

「病院地区における3D教材の開発および開発・提供体制の構築」

 研究概要

大学の使命の一つである優秀な人材の輩出において、ICT技術を高度に活用した新しいタイプの教材開発と、その教材を公開し開かれた学習の場を提供することにより、学内外の自律的な学習者による協調的な学習の推進を図ることはきわめて重要です。
このため、平成23年4月に附属図書館付設教材開発センターが設置されました。実際の授業で利用できる教育効果の高い教材を開発するためには、授業の実施主体である教員と学生の協力が不可欠です。本申請研究の目的は、医学教育分野に対象を絞り、教員と学生の協力のもと3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)等を活用した電子教材の開発と教育実践を通して、教材の開発体制の構築と教材の提供体制の構築を図り全学規模の教材開発に先立つ電子教材開発のモデルケースを確立することです。
具体的には、1)3D教材の開発と教材開発体制の構築、2)教材の提供体制の構築、3)教材開発プロセスの確立、4)教育効果の検証方法の確立をそれぞれ目指します。本申請研究の成果を他分野へ導入することにより、全学規模の教材開発を強力に推し進めることが可能となります。

 研究目的

  1. 研究の学術的背景
  2. 従来、学内の支援制度や教育GPを活用し、情報基盤研究開発センター、医療系統合教育研究センター、各学府・学部は、教職員の個々の活動を支援し、ICT等を活用した教育手法の開発や教科書などの教材開発を行ってきました。これらの活動実績をもとにした連携・支援体制の構築と、新しい電子教材の開発や、これまでに得られた知見や技術を全学的に共有する取り組みを加速させるため、平成23年4月に教材開発センターが設置されました。教材開発センターの活動目的は、ICT技術を高度に活用した新しいタイプの教材開発と、その教材を公開し開かれた学習の場を提供することにより、学内外の自律的な学習者による協調的な学習の推進を図ることです。具体的な活動として、最新のICT技術を活用したインタラクティブ教材の開発、そのための人材育成、講義に密に関係した教材開発のため関連部局との連携強化、教材を学内外に公開し、学内外の自律的な学習者による協調的な学習を可能とするSNS(Social Networking Service)を応用した協調学習環境の整備、どの教材を誰に提供するかといった公開ポリシーの決定と著作権管理を行う著作権管理システムの開発を掲げています。
    一方、病院地区で展開されている医歯薬保健学領域の教育は、健康・疾病状態における人体の構造や機能を理解するために、肉眼的から顕微鏡的、分子的な範囲までの立体的な構造や機能の理解が必須であること、また、3D画像診断が日常的に行われているなど、3D教材やさらにインタラクティブ性を持たせた教材を開発する環境に適していると考えられます。しかし、そのような教材の開発には最新のICTの知識や技術が必要であり、病院地区のみで実施することは難しく、教材開発センターが協力して実施すべきものです。実際の授業で利用できる教育効果の高い教材を開発するためには、3DCG等のICT技術を活用して授業内容に適した形式の教材を開発し、授業の進め方に適した形式で教材を提供する必要があります。また、教員や学生の意見を反映して教材の質を向上させる教材開発プロセスの確立や、そのような教材の利用により教育効果が得られているかどうかを検証する方法の確立が必要です。それらには、授業の実施主体である教員と学生の協力が不可欠です。さらに、授業内容や授業の進め方は多種多様であり、当該取り組みを全学規模で開始するには規模が大きすぎ実施が難しいため、特定の教育分野を対象としたモデルケースを確立することが重要です。そこで、本申請研究は、医学教育分野に対象を絞り3D教材の開発実践および教材の開発体制の構築と教材の提供体制の構築を図ることを目的とします。この成果を活用することにより、全学規模での教材開発が促進されるものと期待できます。
  3. 究期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか
  4. 本申請研究では、医学教育分野を対象として、1)3D教材の開発と教材開発体制の構築、2)教材の提供体制の構築、3)教材開発プロセスの確立、4)教育効果の検証方法の確立をそれぞれ目指します。


    1)3D教材の開発と教材開発体制の構築
    病院地区の教員と医学府の学生との連携により医学教育分野における3DCG等を活用した電子教材の開発を実践します。電子教材の開発実践を通して、電子教材開発のためのノウハウ蓄積と著作権管理のためのノウハウ蓄積および教材開発体制の構築を図ります。特に、対象とする科目において、どのようなタイプの3D教材が適しており、それはどのようなツールの活用により効率よく開発が行えるのかについて検討します。また、開発された3D教材の概要と開発者名が分かる宣伝用ホームページの作成とワークショップ等の広報活動により、協力してもらえる教員や学生を募ります。

    2)教材の提供体制の構築
    授業内容と授業の進め方は、教員により異なっており、それぞれに適した電子教材の利用方法と提供方法を検討する必要があります。病院地区の教員と医学府の学生の協力のもと、無線LAN環境において種々の携帯端末を使用して電子教材を利用した授業を実践し、問題点を抽出しそれを解決することにより、電子教材の提供体制の構築を図ります。

    3)教材開発プロセスの確立
    教育効果の高い教材の開発には、教員が一方的に開発するものでは不十分であり、学生の意見を反映させた教材であることが望ましいと考えます。開発された電子教材を利用した講義を受講した学生の意見を収集しそれを反映して教材を洗練する仕組みを確立します。電子教材の開発自体に学生も携わることができる開発環境を整備します。

    4)教育効果の検証方法の確立
    電子教材を利用した授業において、その教育効果を検証することは重要です。出席率や成績変化等の数値量を用いた定量的評価と、授業を実施している教員とそれを受講している学生からのアンケート調査結果を用いた定性的評価を実施し、電子教材を利用した授業の教育効果を検証します。これらの評価を通して、教育効果の検証方法の確立を図ります。また、3D教材を利用する場合に、教育方法にどのような工夫が必要であるのか、また、どのような科目において教育効果が上がるのかを検証します。さらに、教材開発に要した人数・時間の記録を取り、教育効果との費用対効果を検証します。

  5. 当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
  6. ビデオゲームや映画などのエンターティンメント分野では、そのコンテンツ開発に3DCGが積極的に活用されています。しかし、教育分野においては、その教材コンテンツ開発に3DCG等のICT技術はまだ十分に活用されていないのが現状です。3DCG等のICTを高度に活用した電子教材を開発し教育実践することは、教育の質の向上と教育効果の向上が図れる点で重要です。特に本申請研究の成果として得られる3D教材は、医学教育分野における教育の質の向上および教育効果の向上に貢献する意義あるものです。また、本申請研究は、3D教材を開発することの他、そのような電子教材の開発体制および提供体制を構築することが主たる目的であり、他大学にもこのような例は少なく独創的です。さらに、本申請研究の成果は、他教育分野における電子教材の開発とそれを利用した教育実践への展開を図るためのモデルケースとして非常に重要です。